seven stories, one quiet clinic.
表向きは普通に暮らしているのに、心の奥で
「どうして私だけ、うまくいかないんだろう」と感じる人たちへ。
不思議な診療所が現れる、七つの短編。
「どうして、こんなことで涙が出るんだろう」
「どうして、あの場面で言葉が出なかったんだろう」
その答えの多くは、気持ちの強さ・弱さの問題ではないと、診察室で何度も見てきました。本書は、不思議な「佐久間診療所」を舞台にした七つの短編。怒り・後悔・関係のしんどさ・不安——それぞれの主人公が、自分の反応の背景に少しずつ気づいていく物語です。
後知恵バイアス・バウンダリーの未確保・凍りつき反応——専門用語を物語のなかに溶かしながら、認知・関係性・身体感覚の三つの視点から、回復の道筋を描きました。実際のカウンセリングをもとにした、メンタルセラピー体験小説です。
企画のはじまりに、編集者の三宅隆史さんが前田佳宏に個人的な悩みを相談したZoomがありました。
そこで出てきた「壁を押す」という身体へのアプローチが、書名そのものになっていきます。考え方だけでは動かない苦しさに、身体感覚から触れていく。本書の核は、この場面にすでにありました。
各話の最後に、心の反応を理解する視点と、日常に持ち帰れるワークを置いた構成です。
制作には2年6ヶ月がかかり、その大きな時間が七つのケースをどう物語にするかに費やされました。
前田佳宏の臨床知、掛端玲さんの物語化、編集チームの問いが重なり、怒り・後悔・人間関係・不安といった反応を、読者が自分ごととして追える七つの物語へ再構成しています。
サンマーク出版の会議室を二部屋使い、一室では前田佳宏が三宅さんをカウンセリングし、別室では制作陣がビデオ中継で見守る。そんな異例の制作方法も試されました。
本物のカウンセリングを疑似体験できる小説にするため、言葉だけでなく、イメージ療法や身体感覚の変化も物語へ落とし込まれています。
作家・掛端玲さんは、長期の執筆で言葉が出にくくなる感覚にも向き合いながら、七つのケースを小説として編み直していきました。
精神科医の臨床知見だけではなく、物語として読める手触りがあるからこそ、読者は登場人物の変化を追体験できます。
読んで終わりにせず、こころの仕組みを少しずつ自分の生活に戻していくための次の一歩です。